アールグレイはいかが?

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help リーダーに追加 RSS   花嫁   石垣りん

<<   作成日時 : 2006/12/22 17:50   >>

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習い事の男性の先生二人から、偶然にも同じ「花嫁」を読ませていただきました。

 私がいつもゆく公衆浴場は、湯の出るカランが十六しかない。そのうちの一つくらいはよくこわれているような、小ぶりで貧弱なお風呂だ。

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 その晩もおそく、流し場の下手で中腰になってからだを洗っていると、見かけたことのない女性がそっと身を寄せてきて「すみませんけど。」という。手をとめてそちらを向くと「これで私の衿を剃ってください。」と、持っていた軽便カミソリを祈るように差し出した。剃ってあげたいが、カミソリという物を使ったことがないと断ると「いいんです、ただスッとやってくれれば。」「大丈夫かしら。」「ええ、簡単でいいんです。」と言う。

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 ためらっている私にカミソリを握らせたのは次のひとことだった。「明日私はオヨメに行くんです。」私は二度びっくりしてしまった。知らない人に衿を剃ってくれ、と頼むのが唐突なら、そんな大事を人に言うことにも驚かされた。でも少しも図々しさを感じさせないしおらしさが細身のからだに精一杯あふれていた。私は笑って彼女の背にまわると、左手で髪の毛をよけ、慣れない手つきでその衿足にカミソリの刃を当てた。明日嫁入るという日、美容院へも行かずに済ます、ゆたかでない人間の喜びのゆたかさが湯気の中で、むこう向きにうなじをたれている、と思った。

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 剃られながら、私より年若い彼女は、自分が病気をしたこと、三十歳をすぎて、親類の娘たちより婚期が遅れてしまったこと、今度縁あって神奈川の農家へ行く、というようなことを話してくれた。私は想像した、彼女は東京で一人住まいなんだナ、つい昨日くらいまで働いていたのかもしれない。そしてお嫁にゆく、そのうれしさと不安のようなものを今夜分けあう相手がいないのだ、それで・・・・。私はお礼を言いたいような気持ちでお祝いをのべ、名も聞かずハダカで別れた。

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 あれから幾月たっただろう。初々しい花嫁さんの衿足を、私の指がときどき思いだす、彼女いま、しあわせかしらん?

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 (出会いの劇的な効果とか大げさな表現とかに、ひとはとかく耳目を奪われがちだ。だが実質の伴わない、そうした空騒ぎはすぐ私たちの心を通り過ぎる。騒いだ分だけ後味も悪い。青い鳥はむしろ近いところに住むものだ。見える人には見えるらしい、何も劇的なことばかりが大きな意味を持つわけではないことが)

                        「ユーモアの鎖国」講談社より

    石垣りん(1900〜2004)
 詩人。高等小学校を卒業後、銀行に就職。昇進を「拒否」したまま、1975年2月、定年退職する。
 詩集に「私の前にある鍋とお釜と燃える火と」「表札など」などがある。
 石垣りんは自らの詩を「働く者の立場」の詩だといい、物を考えているのは頭でなく、手や足が感じたり考えたりしているのだという。取り扱う詩の素材は身近だが、日本の社会の深部は常に見据えられている。


 「ゆたかでない人間の喜びのゆたかさが湯気の中で、むこう向きにうなじをたれている」

 こういう言葉、どうしたらでてくるんでしょうね・・・・。

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コメント(21件)

内 容 ニックネーム/日時
アールグレイさんが最近経験した事なのかしらん?っと
思ったのでした。ほんとに言葉が紡がれてると思いました。
お手玉の画像が何だかピッタリですね〜〜〜
りんさんは平成16年Xmasの翌日にご逝去でした。
最近、私も同じような経験。うちの所長が36歳で結婚しました。
札幌の教会でお式でした。その1週間前のある日。
のばさん、襟足を剃って下さいって依頼がありましたので
事務所で襟足から背中の上半分まで剃刀をあててあげました。
うなじから背にかけてが白くてふくよかでした。
nobara
2006/12/22 18:31
1スタッフの時からの付き合いで副所長になり管理者になり…
我が儘娘?ですがとうとう嫁いでいくのかと・・感慨無量・・
蒸しタオルでやさしくマッサージもしてあげました。
他のスタッフが呆れていましたが。イヤ何、いつもの事なので。
ほんとに私には悪態つきながらも甘えてくれます。
こんな事務所。やっぱり変ですよね〜〜
その彼女も1月いっぱいで専業主婦の道を選ぶそうです。
折角のキャリア・・・勿体ないと私は思っていますが。
人それぞれ。生き方も様々〜ですからね。

私もりんさんに触れてみたいと思いました。
nobara A
2006/12/22 18:32
これは、どのくらい前の作品かわからないのですけど、たぶんずっと前のものだと思います。nobaraさんが同じような経験を最近されたなんてホントに、シンジラレナ〜イ!(今年でやめます。笑)
いいお話ですね。私までほんわかしてきました。nobaraさんは許容量が大きいから、悪態をついて甘えるんでしょうね。所長さんは、今度は旦那さまに甘えるのかしら?もしかしたら・・・・。トップに立つ人って、外で毅然としなければいけない分、内では、きっと誰かに甘えたいのだと思います。この考えどうでしょう?
いい事務所だと思いますけど(?)
う〜ん、今の私なら、せっかくのキャリアもったいないと思います。でも、35歳ならいろんな意味で主婦が一段落したら、再スタートできるのでは?そういう方面の能力があおりの方なのではありませんか?

りんさんの「表札など」もいいですよ。
アールグレイ
2006/12/22 19:04
こんばんわ。
このお話はさらりと読めてずっしりと心に残りますね。何も着飾らない言葉で、その光景を淡々と書いているのに、人間の関わりとはこうありたいと感じました。見逃しがちの些細なことが胸を打つ今の世の中ですね。
yume*
2006/12/22 21:17
さらりと読めてずっしり心に残る・・・・きっと、それが上手ということなんでしょうね。
これほど深く受け止め言葉にできるのは、やはり石垣りんさんだからではないでしょうか?
わたしも、こんな風な人間の関わりを持ちたいです。
アールグレイ
2006/12/22 22:36
素敵なお話ですね。素朴な銭湯の湯煙の中での、ほんのひと時の描写ですよね。それが心に染み入って来ます。見ず知らずの方の幸せを願う・・・なかなか体験できないことだと思います。お手玉、素敵ですね。アールグレイさんの手作りでしょうか?
40代乙女
2006/12/23 12:55
なぜか男性の先生二人が、おすすめの文章です。もしかしたら男性は、女性とは違う思いで読まれるかもしれませんね。
乙女さん!お手玉できますか?できましたか?私、すごく下手になりました。
お年寄りの硬い指をみたり触っていると、やがて・・・と思ってしまいます。
アールグレイ
2006/12/23 19:49
こんばんは〜。今夜は冷えますよ。
お手玉はできてましたよ、3個でもひょいひょいと!でも、今は2個がやっとですね・・・って言うより、2個もままならないと言う方が正しいかもしれません。お年寄りの手・・・やがて来る道なんですよね。ちょっと切ないです。母が「不器用になった」と嘆きます。器用な母だっただけに胸が痛いです。
40代乙女
2006/12/24 00:38
おはようございます。
私も、5,6年の時、お手玉(こちらでは、”あやこ”と言ってました)を20個くらい作り、学校へ持って行きました。友達と夢中でした。間違いなく三つでもうまくできたのですが、今は二つでもおぼつかないかも・・・。(今やってみたら、三つでもできるのですが、少ししか続きません)
私たちもやがて行く道ですね。針すら持つことが少なくなりました。キーボードは毎日打ってるんですけど。
アールグレイ
2006/12/24 06:59
ジーンときました。以前銀行に勤めていましたので作者のいきざまはよくわかります。しかしnobaraさんがそっくりの体験をされていたとはこれまた感動です。銭湯もnoba officeもやすらぎとふれあいのある場だった。そこが共通したものであることを感じました。札幌でアールグレイさんと偶然行き会ったりするといいんだけれど...そんな想像をいたしました。
目黒のおじいちゃん
2006/12/24 08:27
目黒さんへ
目黒さんは、銀行員さんだったんですか?それから勉強をして建築家になられ・・・すごい努力ですね。想像を超えます。りんさんの文章とは別の感動です。
私もnobaraさんの体験にびっくりしました。うれしくなりました。nobaraさんは信頼に応えられる方なんでしょうね。
札幌で偶然・・・(笑)ということがなくとも、こうやって何百万人?(何十万人?)のブロガーの中からつながって、コメントを交換し合えるのですから、それだけでも奇跡的なことだと思います。
パソコンと厳しく指導してくれた夫には足を向けて寝られません。
こちらは、ふわふわの牡丹雪が舞っています。もう少し積もったら除雪をします。それから年賀状を書きます。
アールグレイ
2006/12/24 10:10
ホワイトクリスマスですね。ご主人様と楽しくお過ごしください。銀行は所詮金貸し業です。不景気のときはお金を借りたい人をお断りし好景気のときは借りたくない人にお金を借りてくださいと頼みます。つまり晴天の日には傘を持っていけと言い台風が来ると貸した傘を取り上げに来る、銀行員とはそうした因果な職業なのです。当初素晴らしい創立者(頭取)のお話を直接聞く機会も多く理想に燃えていましたが、私の場合はやがて金融の仕事が嫌になりまして独学で勉強して建築の世界にはいりました。
この職業は実力主義で学歴は無関係、しかも創意工夫が生きるので本当に楽しい仕事ばかりです。お客様との信頼関係構築もうれしいことですよ。だから全く後悔していません。でも転職当時家内の父(故人)は「銀行員だから嫁に出したのに」と怒っていたそうです。かつて銀行というのは、安定したとてもいい職業だと思われていたんですねー。
目黒のおじいちゃん
2006/12/24 11:30
目黒さんへ
感動!です。目黒さんのページやコメントから、若さというかしなやかさが伝わってきます。創意工夫ができる建築の仕事と、無関係ではなかったのですね。お客様との信頼構築がうれしい・・・・その通りですね。年を重ねてつくづくそう思います。やりがいのある仕事でしょうね。
「銀行員だから嫁に出したのに・・・」お義父さまの気持ちがわからないではありませんが、今の目黒さんの方がより魅力を発揮できたと想像します。お義父さまは、目黒さんの建築家の仕事をみて下さったのでしょうか?
女性は安定を求めるようです。私も・・・です。
なんだかイヴにぴったり?の、いいお話を聞かせていただきました。どうもありがとうございます。ステキな贈り物でした!
アールグレイ
2006/12/24 17:11
お二人の方に薦められ読まれたとは・・・良いお話で
何とほんわかと暖かい感じで読ませていただきました。
nobaraさんは同じ経験をされたとは又驚きですね。
お手玉もこのお話にぴったりと合って手作りみたいで良いですね。
しまちゃん
2006/12/26 16:17
すてきなお手玉で思い出しました。私の郷里(愛媛県の新居浜市)では
お手玉を競技にし立てて最近は毎年日本選手権が開催されるほどになりました。東京にも支部があります。段位も付くし老若男女お手玉に夢中になる人も多いようです。お手玉饅頭という菓子も販売されています。家内は小豆をいれた手作りのお手玉を孫に与え練習させていますがアールグレイ
さんは昔とった....でお上手なんでしょ?我が家には昔家内の長姉から贈られた素敵なお手玉もあります。使わずに大切に飾り棚に置いてますよ。
こんなとき壁をくりぬいた飾り棚(ニッチ)が役にたちます。建築用語でこうした造作を「未利用空間の活用」と申します。因みに我が家のニッチは合計3カ所、来客の評判もよく(狭い家ですが)重宝しております。
目黒のおじいちゃん
2006/12/26 18:41
しまちゃんへ
いいお話ですよね。nobaraさんが、今の時代に同じ体験をされているのがすごいです。いい関係なんでしょうね。
お手玉は手作りです。
アールグレイ
2006/12/26 19:32
そうそう義父のことですが満99歳を過ぎた秋のことです。丁度新居浜の秋祭りの頃でした。寝たきりの義父を見舞いに帰っていたとき無呼吸状態になったと家内の急報をうけ救急救命措置をお願いして幸い蘇生した夜中義父の手を私はしっかり握っていました。時には話かけながら強く握ると(どこからあんな強い力が出てくるのか不思議でしたが)ものすごい力で握りかえしてくるのです。そのまま朝まで握り合っていました。あれから一ヶ月後義父はこの世を去りました。「100歳まで生きられますね」というと「儂を100歳で殺すのか!」というのが口癖だった義父との最後を思い出す握手です。許していただけたかどうかは定かではありません。
目黒のおじいちゃん
2006/12/26 19:37
目黒さんへ
けん玉でなくて、お手玉の日本選手権ですか?
お手玉饅頭・・・見てみたいです。(笑)
私は何をやっても不器用なのと、競うのが苦手です。
我が家のも小豆を入れました。
ニッチ・・・以前目黒さんのページで拝見しました。3カ所もあるんですか?いいですね〜。
やっぱり目黒さんは銀行員から建築家になって正解だったのではないでしょうか?ハンドルには”遊び”があると聞きました。目黒さんはそれを実践していらっしゃいます。ご自身にとってもご家族にとっても、周りの皆さんにとってもゆとりのある人は、魅力があります。
アールグレイ
2006/12/26 19:45
おはようございます。お手玉競技については「日本お手玉の会」のホームページを見て参考になさってくださいね。見るだけでも面白いです。
住宅の設計では遊び心が大切であると思っています。車や船のハンドルの遊びも人生もすべて同じですね。いくら理想の住まいを設計してもどこかに無駄がないと実際に住んでみて不満が出てきます。理屈ばかり言うひとそれが正しいとしても聞いていて息がつまってきますね。遊びや無駄は実に大切なんですよ。だからどんなに忙しくてもお金がなくても私は突然旅の計画をたて出かけようとします。その先で得るのは新しい出会いであり未知の世界の経験であり移動のエネルギーです。無駄な出費に見えますが病気で病院に多額の治療費を払うよりいいことではありませんか?
目黒のおじいちゃん
2006/12/27 09:19
おはようございます。
遊び心が大切だと、年を重ねるごとに思います。
大人にも道草は楽しいですものね。ユーモアのある会話も大好きです。
若い頃は理屈が多かったのですが、今では情に流されそうなほどもろくなってしまいました。
旅行はすぐにリフレッシュできますね。旅行をしたら病気にならないという保証もないので・・・(笑)でも、旅行したいです。

アールグレイ
2006/12/27 11:58
たびたびお邪魔します。楽しい旅行はプランをたてる段階からさまざまな想像で思いをめぐらし脳細胞を活性化しますよ。緊張とリラックスの繰り返しで病気になるひまがないし、帰ってきてからも旅の余韻が残ります。日本の半導体開発の父とも言われる東芝の役員は開発に行き詰まりシリコンバレーに行こうと羽田空港を飛び立った瞬間にアイデアがひらめいたという逸話があります。彼は勿論アメリカに着いたらその場で日本に引き返したそうです。この場合遊びにでかけたわけではないのですが遊びを目的にした旅行はもっとすばらしい収穫を与えてくれると思いますね。病気を持っていても直ってしまう場合があるんじゃないかな?知らず知らず病気予防にもなっています。アールグレイさんにとって旅行はお金と時間を浪費する無駄な寄り道でしょうか?情に棹させば流されるかも知れませんが
人間加齢とともに他人の心がわかって丸くなっていくから大丈夫ですよ。
目黒のおじいちゃん
2006/12/27 15:05

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